インタビューvol. 1 杉田篤史さん「ハモりが生まれる場所で」


アカペラグループINSPiのリーダー杉田篤史さん。
現在、INSPiの活動の他に、「ハモリ」を軸にした新たな挑戦を始めています。
ハモるとどんなことが起きるのでしょうか。
杉田さんにハモること、現在の活動、これからのことを伺いました。

ハモるの入り口

ーー「ハモる」ときに大切なことってどんなことですか?

杉田:ハモるときには信頼がないと絶対ハモれないんですよ。当たり前といえば当たり前ですよね。

信頼さえあればわりとすぐにハモれるんですけど、いくらうまい人が集まっていてもそこでお互いに信頼していないと、相手に合わせて自分の音を置いているのに、相手が逃げていくんです。

相手がつかまらないと焦って、じゃあこっちかなと思って行くとまた向こうが逃げたり・・。お互いに向き合うという態勢ができていなかったら、いくらうまくても、周りの状況を整えてもハモれません。

その場にいるどの人のことも価値のあるものだと認めることや、共感できるできないは別にして、相手の意見を尊重しようというスタンスが「ハモること」には大切なんです。

ーーハモる中での信頼関係とは?

杉田:お互いに信頼するというよりは、まず自分から信頼することだと思いますね。自分から相手に向かっていく。

できる限り自分の持っているポジティブな感情で相手に接すること。そして一緒に歌ってくれてありがとう、君の声を100%の集中力で聞いて合わせていくよというメッセージがスタートですね。

「お互いに信頼している、一緒にやって行こう!」の50/50(フィフティ・フィフティ)ではなくて、むしろ100/0(百とゼロ)で始める。この人と一緒にハモリたいなというときには、僕は自分から100を出すべきだと思います。

ーー最近の活動について教えてください。

杉田:いま人生の節目にいるような気がしています。年齢的にも39歳で、ちょうど周りの同世代を見ていても、みんな新たなチャレンジや、もう一歩自分の理想に近づこうとしている。自分もそういう流れになっています。

プロデビューして16年目なんですけど、いまはメンバーが病気になって休業する中でグループとしての活動を土日祝に限っています。平日はそれぞれ仕事をして、自分もアーティストをやりつつ、もうひとつの軸を作ろうと、この一年くらい新しい試みをしています。

とにかく空いている時間は会いたいと思う人に会いに行っています。その中で徐々に今後やっていくもう一つの軸が見えてきている感じです。それがhamo-labo(ハモラボ)です。

hamo-laboでやりたいこと

杉田:hamo-laboは簡単に言うと、ハーモニーを楽しむことで、さまざまな会社、家庭、地域など、社会的な組織の中で人と人が調和していく、調和をつくる方法をみんなで学び、研究しましょうという趣旨です。

今までは僕らのパフォーマンスを見て楽しんでもらって、ハモるっていいねと思ってもらうことをやってきました。ハモる、アカペラで歌うのは、見ているより、やるほうが楽しいと思うんです。

自分も参加してハモったときにハモリの魅力のコアに近づける感じがします。だから見ているだけではなくて一緒にやってみようよというワークショップを僕のもうひとつの軸としてやっていこうとしています。

ーーアーティストとして聴かせることから、一緒にハモる活動をするという変化の大きな要因は何ですか?

杉田:外的な要因で言えばメンバーが病気になって、平日はメンバーがそれぞれのことをやるようになったことにともない、1年半くらい企業で働いたことにあります。

ラッシュアワーの中を通勤し、月曜日から金曜日まで働くという生活をしました。それが新鮮で、カルチャーショック・・。

大学生のときにデビューしたので生まれて初めての経験でした。そういう生活を今までしたことがなかったので、体力的にも精神的にもすごくタフな世界なんだなぁと実感しました。

組織の中の一員として働くということを今まではせいぜい6人のグループでやってきたので、それが100人、200人の組織になった中にいる自分というのを体感しました。

組織のあるべき姿というのは、最初は下積みで我慢しなくてはいけないというのもあると思いますが、時代の流れからしたら、そういうことじゃないのではと。思い上がりかもしれないけれど、世の中に何かメッセージを届けたいと思いました。

組織というものはもうちょっと自由にパフォーマンスできないのだろうかと思っていて、そのための方策を組織で働く人と一緒に考えたいと思いました。

自分が16年間、メンバーと一緒にハモってきたこと、その中でメンバー同士でいろいろなぶつかりがあって、いろいろな危機を乗り越えてきました。その経験を伝えるメッセンジャーになりたいなって思ったんです。

デビューして間もない頃、今後どうやってやっていったらいいんだろうと悩んでいたときに、自分にとっての「I am 〇〇」の〇〇を考えたときがあったんです。そのときの僕の答えが、「I am メッセンジャー」かなと。歌を作って、歌を通して聴いてくれる人に、僕が思う大切なことを伝えることが自分の一番のコアだと思っていたんです。

そして今度は新しく軸となるhamo-laboに参加してくれる人に対して、メッセージを伝える人になりたくて、今もやっぱりメッセンジャーという言葉を大切にしています。

ーーそのhamo-laboではどんなことをメッセージしていきたいですか

杉田:これには3つのFがあります。1つめが「Fun」ですね、楽しむ。2つめが「Free」、そして3つめが「Full Value」です。hamo-laboでは、まずは楽しんで欲しいです。みんなで声を出したら楽しいですよ!

そこに一緒にハモってくれる人がいて、ハモったら、「私が出しているこの音は私が出すべき音で、ここに私の音を出す場があるんだ」と居場所が感じられると思うんです。これはハモリのヒーリング的な側面だと思います。

自分が出すべき音があって、出してみて、そこに反応して寄り添ってくれる存在があると思うことでめちゃくちゃ心が安定するんです。声を出すと体も健康になるし、心も健やかになってリフレッシュできます。

あとはみんなでハモる場が、サードプレイスになっていったらいいなと。hamo-laboしながら企業の垣根を越えて、そこでのつながりがプライベート的にも仕事的にもいい効果、力の源になって意欲がわくんじゃないかと思います。

hamo-laboではいろんな形態を考えていて、いまは「hamo-laboローカル」として逗子では地域の人と、「hamo-laboマネジメント」として品川ではオフィスワーカーとハモっています。

また、いま新たにやろうと思っているのが「hamo-laboヒーリング」として、もう少しパワーがほしいなと思っている人とハモって、その人たちにとっても自分の居場所となる場所ができたらなと思っています。

あとは「hamo-laboエデュケーション」ですね。子どもたちと一緒に声を出して、子どもたちが、誰かと一緒に何かを作る楽しさや、人を尊重することを感じられることをやってきたいです。

ーーhamo-laboには歌うことに苦手意識を持っている人も参加できますか?

杉田:とにかく、おいてけぼりにしたくないです。おいてけぼりにすることによって、その人をひとりぼっちにしてしまうし、そこにハーモニーは生まれません。

僕は苦手意識を持っている人に来ていただけたら、その人にちゃんとフォーカスしてやっていこうと思います。

目標は楽しいと思ってもらえること。fun, free, full valueの3つの基盤の要素のまずfunのところまでどうにかして持っていきたい。そのために技術的なサポートもやりますし、安心して声を出せる環境も守ります。

hamo-laboは本当にいいんですよ(笑)。 この良さは絶対伝わるから、あとは仲間を増やすだけなんですよ。ハモるのっていいよねと言ってくれる仲間を増やしたいです。

これからの時代は断然ローカル

杉田:いま、間違いなくローカルの時代なんですよ。東京(中央)に集権して、工業製品をいっぱい作って街を作っていくという「画一的な」時代から、もういろいろなところに分散して、そこならではのカルチャーを作って、そこでしか生まれないデザインでみんなが楽しめるものをつくっていくという「多様性の」時代になってきています。そういう意味でローカルって重要だと思っています。

ーーローカルの時代ってどんな感じですか?

杉田:ある程度のフリースペースというか余裕や余白がないとなかなか生まれないものがあります。ハモリもそうですね。

都市は単純にひとりに与えられたスペースが小さいので街を歩いてもお互いに譲り合えない。ターミナル駅などでは「我先に」感があって、消耗する感じがあります。

年齢的な変化もあるかもしれないですけど、ローカルに、心に余裕のある状態でモノづくりやデザインを考えていきたいです。

単純に地方に住むという選択もあるし、都会に住んでいても地域のイベントに積極的に参加してご近所さんとの付き合いを大事にする、「我先に」ではなく「お互い様」という心構えでいることもローカルな生き方だと思います。いわゆる江戸落語の世界ですね。

ハモリ×社会

ーーこれからのhamo-laboは?

杉田:いまはhamo-laboで今後僕がやろうとしていることの仲間を掘り起こしている状況です。

時代の流れと逆らっていないなと思うのは、多くの会社で副業を解禁してきていたり、特殊能力を持った人が社会貢献のために無償で提供するプロボノという形もあります。

社会の中にそういうことをやっていこうという流れがあって、僕のやりたいことも完全にそこと一致しているなと思います。

僕はハモリで社会をよくしていきたいと思っていて、学生のときのつながりや、今あるつながりに発信していけば、そこのネットワークが間違いなく力になってくれて、仲間になれる。そういう人たちと協力してチームを作っていきたいと思います。

ーー社会をよりよくしたいと思うのはなぜですか?

杉田:うん。面白いからですね。そっちのほうが面白いと思うんですよ。

あと自分が面白いと思うことや、あー血がたぎるなあ、これやったろと思ったことで、みんなが笑ったり、なんか楽しんだりしてくれたら、こんなに嬉しいことはないじゃないですか。それが僕の社会をよりよくするイメージなんです。

そういうことをみんながそれこそ副業しながらでもいいからやっていったら、それがサークルの外の人たちにも伝わっていって、「面白いことってあるんだね、世の中には」とか、「やっぱり人生楽しまなきゃ」と思う人が増えていく。

どうせ一回しかない人生だから、いがみあうよりは、仲良くみんなでワイワイ生きて行ったらいいんじゃないかと思う人が増えたら、本当にそのことで社会がよくなると信じているんです。

(インタビュー:寺中有希 2017.10.17.)

インタビュー後記はこちら

プロフィール:

杉田 篤史(すぎた あつし)

アカペラグループINSPiリーダー
様々な社会組織における人々の調和を考えるワークショップhamo-labo主宰
NPO法人TOKYO L.O.C.A.L 理事

〈INSPiプロフィール〉
1997年大阪大学で結成。2001年フジ系「ハモネプ」出演、メジャーデビュー。 THE BOOM宮沢氏と「ちっぽけなボクにできること」(2002年)長渕剛氏と「翼~つばさ~」(2003年)共作。2005年より日立CMソング「この木なんの木」担当。2015年12月〜翌年1月NHKみんなのうた「ドミソはハーモニー」放送。2017年コクヨテープのり「ドットライナー」テーマソングをYouTubeで発表。インドネシア、タイ、モンゴル、ウズベキスタン、カザフスタン、メキシコ、ブラジル、アメリカ、香港など海外公演多数。

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