インタビューvol. 2 今和泉隆行さん「空想地図に吹く風は」

 

空想地図制作などで知られる「地理人」こと、今和泉隆行さん。
日本のどこかにある!と断言できそうな空想都市ー中村市(なごむるし)の空想地図を制作しています。地図だけでなく、コンビニや企業のロゴからタウンガイド、グルメガイドもありますが、鉄道や料理、公文書、キャラクターはさまざまな分野の方の力で、中村市はどんどん進化しています。そこに住んでいる人々の姿まで想像できる不思議な世界です。

空想地図とおままごと?

ー空想地図は、男の子の、迷路にハマるのと似た感覚でしょうか。

地理人:図形脳が強い傾向にある男子は迷路にハマりがちで、これは空想地図と近いと思います。しかし女子がハマりがちなおままごととも、実は空想地図と近いのです。おままごとは花屋や家族などまわりの環境にあるものをロールプレイングする身体表現です。私にとっては住んでいる都市を地図で表現していますが、日常を再現するという意味では似ています。自分の手でそれを再現するんですね。「都市でも古い街は道が狭い」「新しい都市だと道が広くて作られたような曲線になる」と大人は言葉を聞くだけで理解しますが、子供は自分の手で再現したくなります。「それってどういうことかな」「細い道をたくさん作ると古い街っぽくになるのかな」「じゃあ実際に作ってみよう」と思って作るのが空想地図です。図形脳で地図を再現するのか、身体と言語表現で再現するのか、表現手段の違いでしかありません。

ーそうすると、地図だけじゃなくなりそうですね。

地理人:最近、美術館での展示にあわせて、半ば衝動的に「空想都市の落とし物」を作りました。空想都市に住む人、つまりは実在しない人の生活を想像して作るんですが、私と知り合いにならなそうな人を作るというのがミソでした。黒い財布を持つ30代IT系サラリーマンは、居酒屋で肉を食い、酒を飲み、少年漫画を買い、キャバ嬢の名刺を持っています。仕事に疲れてアルコールとキャバクラみたいな人、多いですよね。キャバクラのよさは全くわからないんですけど、そういうところに行きたい男性のことをなんか知りたいんですよね。私も地球人の一人なんですが、平均的な地球人の営みを、ちょっと外側から俯瞰で見ているような感じです。地球人のことが知りたい。そんな好奇心ではじまる人間観察です。

ー地図を作ることと、人間観察は別のことのような気がします。

地理人:目線が俯瞰、というのは地図の目線と共通しています。ただ、地図を好きな人は人間観察好きとは限りません。人間の気持ちより、構造や技術のほうが理解できるタイプの人が、地図に興味を持ちがちでもあります。人の表情からその人の感情や背景、これまでの経緯を読み解くほうが得意か、機械の構造や応用可能性を探るほうが得意か、後者がとりわけ得意な人がオタクになりやすく、地図好きにも多い。私ももともとは後者に寄っていました。前者は苦手であったものの、人間一人では生きていけないので、人を知る必要があると強く感じていました。また、人に対する好奇心もあり、前者は後天的に身につけていった形です。

空想地図の作用

ー空想地図や、こうして作ったものはどうしていきたいですか?

地理人:もともとどうすることも考えておらず、ただ作りたいだけでした。ただ、見ておもしろいと思う人がいたら楽しんでもらいたいし、参画してくれると嬉しくもあります。人に眠っている想像力が空想地図によって引き出されるのを見ると、やってて良かったなと思います。見る人が、行ったこともないお店や場所の姿を、自分の中の今までのイメージと組み合わせて想像して、ありもしないリアリティをありありと感じるのは、その人にとっての未知の体験でしょう。行ったことがないのに、「あるある!わかる!」なんて不思議なことですよね。こうして本人の中に眠る感覚を呼び覚ますことができるような気がします。あらゆる創作や専門知識が横断的に行き交うプラットフォームや、まちづくりやマーケティングでシミュレーションできる舞台にできればと思っています。

ー地図を読むのに図形脳は必要でしょうか。

地理人:地図は、異なる場所の情報をひとつの平面におさめた図です。サイコロの展開図が描けるような図形脳がある人は、東西南北あらゆる方向の、目に見えない範囲のつながりをつかみやすく「地図が読める」のですが、そうでない人にとっては読みにくい、厄介なものです。私は地図は読めるかわりに人の顔が覚えられませんが、顔の記憶力も図形脳も、努力でカバーしにくい先天的なものだと思います。ただ、図形脳ではなく位置関係や距離感がつかめなかったとしても、地図の模様から、人や建物が多いか、新しいか古いか、平たいか山がちか、ざっとした雰囲気の違いを感覚的に読むことはできます。私はそんなシンプルな読み方から想像して楽しめることも多いと思っています。

地図模様を楽しみながら空想地図を作れるキットとして、空想地図シートを作りました。山から街までの地図模様のシートがあり、これを切って貼ると街ができます。イベントで意外と好評なのが、参加者が作った地図を見て私がその地図から読み解ける街の様子を勝手に解説することです。地図を見ながら、昔の様子と人口が増えた要因、昔の道の沿道の風景から、人口が増えた後でできた新しい道の沿道の風景や地元の人の声を想像して話します。作った人の意図を超えて驚かれることもあります。

何かを作る衝動

ー空想地図や忘れ物の他に、衝動的に作ったものは?

地理人:これは空想ではなく実際の東京(首都圏)の、鉄道と主要なバスを全部載せた路線図です。誰にも頼まれてないんですが、突然衝動的に作りたくなることがあります。作っているときは勢いがあるんですが、作り終わると熱が冷めてしまうので、このように作り終わって眠らせているものがたくさんあります>

電車は東京23区だけで56路線もあるんですね。24色の色鉛筆だって似たような色があるのに、56路線なんて似た色ばかりで被ってしまう。神田で中央線と銀座線のオレンジ色が重なったり、飯田橋、市ヶ谷で有楽町線と総武線の黄色が重なったり。そんなことがざらにあるんです。そこで、地上のJRは影を漬けて浮き上がらせ、地下鉄は気づかない程度の点線にして沈めています。平面で見せながらちょっと立体感を出し、同じ色が重なっても重なって見えないようにしました。

空想地図もそうですが、深夜のテンションでただただ手を動かしくて作りたくなる衝動は、クロスワードパズルをやり始めたら止まらない人と近いと思います。人に説明のできないただの衝動が、何かを作るスタートになっています。

ー人に説明できない衝動は、大人でも持っているものでしょうか。

確かにこれは、子どものときに持っていたような衝動だと思います。私自身は小学校5〜6年で地図の試行錯誤を進めましたが、私が行う空想地図のイベントで参加者が作る地図を見ても、また地図に限らず子どもの描く絵を見ていても、小学校3〜4年は試行錯誤が多い一方、5〜6年になると大人の求めるものを読み取って、大人のやり方を覚えてきます。そこで固まるまで、小学校3〜4年が最後の試行錯誤というか、暴走の時期だと思います。

この時期に試行錯誤したもので得意分野が固まってくるのではなく、その発想が別のところで活きてくると思います。幼稚園ではゼロからイチを作る試行錯誤を全員やっていて、その時代はみんながクリエイターとも言えるでしょう。その感覚を全部捨てた状態で、中高生、大学生、大人になってから忘れたり捨てたりすると、「え、正解はどれですか?」と戸惑ってしまう。完全なイチを求められるうえに、百の手本がないとできないようになってしまう。

「ゼロからイチ」を生み出すちからは大人になってからはなかなか身につけにくいものです。ただ、ないと思っていても、気づかぬ底に眠っていて、あとで育ったりもするので、意外とあると思っています。ただ、この衝動・・・仕事に支障が出たり、何の結果も出ないことも多いので、何かの原石でもあるようで爆弾でもあり、一概にイイと言えるものではありませんが。

(インタビュー:寺中有希 2017.11.29)

プロフィール:

今和泉 隆行(いまいずみ たかゆき)

1985年生まれ。7歳の頃から空想地図(実在しない都市の地図)を描き、現在も空想地図作家として活動を続ける。 大学生時代に47都道府県300都市を回って全国の土地勘をつけ、2015年に株式会社地理人研究所を設立。日経ビジネスオンラインライター、ゼンリンアドバイザーを経て、都市や地図に関する情報を、多様な人につかみやすい形で提供すべく、情報デザイン、記事執筆、社員研修、テレビ番組やゲームの地理監修・地図制作に携わっている。主な著書に「みんなの空想地図」(2013年)。

ホームページ:地理人研究所

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