インタビューvol. 4 白石康次郎さん「楽しい方向に、明るい方向に」

 

海洋冒険家の白石康次郎さん。数々のヨットレースやアドベンチャーレースで活躍している他、子ども向けの海洋プログラムや児童養護施設への支援にも長年携わっています。プロジェクトアドベンチャージャパン代表取締役COOの茶木が前職で白石さんと海洋プログラムを行ったご縁で、白石さんの生き方、人や自然との関わりについてお話を伺いました。

困難なときにできること

白石:日本は北緯35度に位置していて、春夏秋冬がほぼ均等に、非常に繊細に巡ってくる世界でも非常に珍しい国だから、日本人は季節に敏感で、情緒性があるんです。

ー白石さんがヨットで冒険をするとき、その情緒性というのはどう活かされるのですか。

白石:自然との一体感ですね。勝ちたかったり、エベレストを征服したかったりしない。日本人はそこが決定的に違います。自然と一体化する感覚もあるけれど、情緒性があるんです。要するにお釈迦様の「諸行無常」、「諸行」は「世の中」、「無常」は「常ではない」という意味で、変化が常、変化を恐れないということです。

ーずっとヨットが好きなんですか?

白石:ヨットが好きなんじゃなくて、世界一周がしたかった。僕の原動力は好奇心だから。楽しいからやっているんです。

ー暗くなったり、もう無理、ダメだとならないのですか?

白石:僕だってそうなりますよ!失敗して喜んでいる人なんかいない。でも部屋が暗くなったら明かりつけるでしょう?僕は明かりをぽっとつけて、楽しいこと考える。「うまくいかない、僕の人生ダメだ」と言う人は、優しくしてくれた人もいたはずだけど、そういう人を見ないで、嫌な奴のことばかり見ている。
僕は常に明るい方向に舵を切っている。今回のレースでもマストが折れたけど、応援してくれる人がいて、信じてくれている人がいる。状況は変えられないけど、僕はそっちの方を見ている。

幸せというのは嫌なことが起きないことではないし、全てがうまくいくことでもない。悩みがなくなるのが幸せということではないから、それを勘違いしてはいけない。

でもあらゆることが起きても幸せでいられるのは、自分が自分でいられるということだよね。自分らしくあること。どんな状況が起きたって、幸せなんだよね。

僕は難しい方程式を解けなんて言ってないんだから。楽しいことを考えて好きな人と会うのが大事。逆にいうと嫌いな人と会う必要はないし、仲良くする必要もない。苦しんでいる人はなんとかうまくやらなければいけないと思ってしまう。

僕は楽しいことのためにはどんな苦労も惜しまない。船酔いが30年間治らなくて海に出ると毎回、2週間は血反吐を吐いてる。それでもヨットは楽しい。楽しいことだからできるし、がまんしたらできない。苦しい人というのは、苦しい方に舵を切っている。幸せは何かを得たから幸せなのではなくて、幸せな方に舵を切った瞬間、幸せになれる。もうひとつは行動しなくてはいけないということ。歩んで、初めて幸せの方に行ける。車にガソリンを入れてもアクセルをふかさないと走らないから。楽しい方向に、明るい方向にハンドル切る、そこから動いてみて初めて幸せの方向に行けるんです。

ー一歩動くのには、とてもエネルギーが要ると思うのですが。

白石:大丈夫、好きなことをやればいいんだから。エネルギーが要るということは、エネルギーが要るよというサインが出ているということ。つまりあなたは間違っていますよという心のサインが出ている。「苦しい、うまくいってない、いたたまれない」というのはサインなんです。例えば肉体が怪我をすると痛いと体が教えてくれる。心もちゃんと教えてくれるんです。苦しい、あの人ちょっと嫌いというサインが出ているなら、そういう人と仲良くする必要はない。やるべきことは好きな人と仲良くすることなんです。

キリストもみんなと仲良くしろではなく、愛しなさいと言っている。孔子は、嫌いな人のことを「敬って遠ざけろ」と書いている。だから僕は子どもたちに「仲良くしなくてもいい、ただ敬って遠ざけなさいと、仲のいい人たちとなるべく時間を過ごして好きなことをやりなさい」と言いますよ。

子どもたちのプログラムでは船の脱出訓練で飛び込むけれど、飛び込めない子がいたら「いいよ、飛び込まなくたって。見ていな、安心しろ、今飛び込めないだけでおっきくなったら飛び込めるから!」と言うんです。絶対比べないし、強制してはいけない。お母さんが「なんであんた飛び込まないの」と言ってはダメ、自分のタイミングで飛び込ませることが大事。子どもの成長よりお母さんの期待が上回ったらダメですよとお母さんに言っています。絶対に比べてはダメ。子どもは見ているだけで成長している。飛び込める子には飛び込ませればいいし、飛び込めない子は飛び込ませる必要はない。飛び込める時期になったら飛び込めば大丈夫だよってね。

子どもたちは失敗しちゃいけないと教わっているんですよ。最初からうまくいく人なんていないのに。僕も2回、世界一周に失敗して成功できたのは、失敗すると実力がついてくるから。いきなりうまくいく子なんていない。実力をつけるためにやっているのだから昨日の自分より今日の自分がよければいい。隣の子と比べてはいけないし、「大丈夫だよ」と魔法の言葉をかけてあげて、できないことを認めてあげる。一番大事なことは相手が明るくなるような言葉を使うこと。

うちの親父は僕にダメと言ったことは一度たりともありません。だから子どもたちは恐れを知らないし、みんな夢を叶えている。親父は信じてくれただけ。親父がある雑誌の取材で「子どもは親の言うことをきかない。親のすることをするものである。僕は子どもの邪魔はしない」と言っていたんです。心配は恐れであって、愛ではない。愛は信じることだから。お母さんが恐れているとその恐れを子どもに植え付けてしまう。そうすると子どもは恐れるようになる。自分をダメだと思ってしまう。子どもに原因はない。子どもは言われた言葉で育つ。大人になったら言った言葉で人生が決まります。

子どもは困りたいんです。困らなかったら生まれてくる必要がない。学びたいんです。だから喧嘩を止めてはダメ。喧嘩を通してどうやって仲良くなるかを学んでるんだから、そこを大人が仲介したら、大人になったとき、自分で蒔いた種を自分で刈り取れなくなってしまう。ケンカを未然に防ぐと、いつまで経っても学べない。先生が介入してはダメ、また先生を頼るようになるから。トラブルが起きないようにすることを学ぶのではなくて、トラブルがあっても解決する術を教えなければいけないんです。

幸せをつくる

白石:僕の教育理念は嵐を乗り越える子どもをつくること。幸せな子どもを育てたいとは思っていなくて、幸せになる子を育てたい。いくら親がやったって、本人が幸せになりたいと思わない限り幸せになれないでしょう。つまり幸せは教えられない、体験するものだから。「幸せになりたい」と、子どもたちに思ってもらうには、自分がどういう方法でどうやってきたかを背中で見せるしかない。そのあとは自分たちでやれ、自分たちが体験しろと言います。

ー子どものプログラムで一番楽しいことはなんですか?

白石:子どもより先に僕が一緒に一番遊ぶこと!遊び方を教えてあげるの。沖縄に行ったときも、ガジュマルの木にまず僕が登っていく。「登っていいんですか」と子どもたちが聞くから、「なんで登っちゃいけないんだ!」と言うと、「登っていいんだ!」と殻が破けてくる。遊ぶのが上手じゃない子もいるけど、それは知らないだけ。遊び方の見本をまず見せる。山本五十六も、「やってみせ、言って聞かせて、させてみる、褒めてやらねば人は動かじ」と言っているでしょう。まずやってみせる、これ会得と言う。次にやってみせてなるほどとイメージができるから物真似、コピーさせる。次は習得の段階で、具体的なテクニックを体得して自分のモノになる。最後にそこから離れて、今まで習ったことを全て捨てて、オリジルのことをやる。これは「守破離」とも言って、物事には順序があって、まずやってみせる、しかもまずは楽しそうなんだなと思わせることが大切なんです。

ー凄く難しい関わりがあった子どもはいますか。

白石:難しくなんかないです。こっちは本気でやればいいんだもの。ポイントは比べないということ。かける言葉も当然変わってくる。見ている人も飛び込む人もいる。どちらが良い悪いなんて評価しない。飛び込んだら素晴らしい、それでいい。褒めない、均等にというのもよくない。やったんだから素晴らしいと褒めていい。みんな気にし過ぎなんだよね。愛のある言葉や明るくなる言葉をかければいい。あとは本人次第だから。子どもは子どもの人生しか歩めないし、親は子どもの人生を歩めない。

明るい方に、明るい方に舵を切って、それを導いてあげるんです。「あなたに優しくしてくれた人もいたよね」と気がつかせてあげる。魂、自分の声を聞くということ。情報が多いとなかなかその声に気づかない。頭で情報に振り回されてしまうから。だから何もない海では自問自答していることが多い。世の中、「中庸、真ん中、バランス」が大切だというでしょう。僕は人類最小単位で旅をして地球一周をしている。でもそれだけをやっているのではなくて、居酒屋で飲んだりもする。どちらもやるから真ん中がわかる。自然は人間が作り出したものではないから、その自然を知り、そして人間界を知り、そこから一番いい真ん中が分かってきます。

大自然の中で学べること

白石:集団でやらないとできないこともあります。人は人で磨かれるんです。学校に行く必要がひとつだけあって、それはリーダーシップとコミニュケーションを学ぶこと。これは1人では学べないんです。全部自分の都合の良いようにしていると磨かれない。いろんな意見やいろいろな人と出会って、魂は磨かれる。自然に磨かれ、人に磨かれることによって人生が豊かになる。だから大自然でやる意味があるんです。海に出て風が吹いて荒れてきたとき、風を収めたくても収められないから子どもたちが納得するんです。自然の中では協力しろと教える必要もないんです。皆、やらざるを得ないから。自然と一生懸命やるようになる。それが自然のプログラムの説得力のあるいいところ。あとは東洋的な思想である「常である」ということ。押さえつけるのでもなく、達成するのでもなくて「変化が常である」。ダーウインも「生き残るものは強いものでも、賢いものでもない、常に変化するものである」と言ってる。つまりそういうことなんだと思うんです。

(インタビュー:寺中有希 2018.1.11)

 

プロフィール:

白石 康次郎(しらいし こうじろう)

東京生まれ鎌倉育ち。

少年時代に船で海を渡るという夢を抱き、三崎水産高等学校在学中に単独世界一周ヨットレースで優勝した故・多田雄幸氏に弟子入り。レースをサポートしながら修行を積む。1994年、当時26歳で、ヨットによる単独無寄港無補給世界一周の史上最年少記録(当時)を樹立。その他数々のヨットレースやアドベンチャーレースでも活躍している。

また、児童養護施設への支援活動にも長年従事しており、2014、2015年と高校生たちと共にヨットを学び、逗子-伊豆大島間を1泊2日で往復航海するプログラム「大島チャレンジ!」を実現するなど、子供達に自然の尊さと「夢」の大切さを伝える活動に積極的に取り組んでいる。2016年11月には最も過酷な単独世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローヴ」にアジア人として初出場を果たすもマストトラブルにより無念のリタイア。次回2020年大会で初完走を目指している。

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