インタビューvol.23 牧原ゆりえさん「仕組みを変えていくためのサステナビリティ」

一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表の牧原ゆりえさんは、スウェーデンの大学院でサステナビリティとそのためのリーダーシップについて学び、そのときに出会い、実践してきた「アートオブホスティング(AoH)」という参加型リーダーシップを学び、実践するトレーニングの場を開いています。AoHは一人ひとりの大切な思いを対話し、変化につなげていくためのコンセプトや手法を練習し、実践する場です。(AoHについてはこちら) 

学びの場を探す

ーースウェーデンの留学から帰国してどれくらい経ちますか?

4年経ちました。最近は「アートオブホスティング(AoH)」のコミュニティの中でやった方がよいとされる4つの軸のひとつが自分にはないことがずっと気になっていました。

ーーAoHの4つ軸とは何ですか?

AoHが一番大切にしていることで、1つ目は「host yourself、タフな対話に耐えられるために、自分をホスト(大切に)したり、のんびりしたり、鍛えたりする時間をとって自分を整える」。2つ目が「人の場に参加して流れに身を任せて対話を楽しむ」。3つ目が「大切な話をしようと呼びかけ、話し、収穫する」、4つ目は「そこでできたコミュニティの人たちと、この3つの実践を持ち続ける」です。(注1)

その内の「人の場に参加する」が私にはほとんどなかったんです。自分がサステナビリティを学んできて大事だと思っていることを話しましょう、やりましょうと言い続けて発信している4年間でした。今年は自分からは「大切な話をしよう」と言い出さないで、誰かの学びの場に行くことを頑張っている最中なので、以前やっていたようなワークショップはお休みしています。

ーーなんで休もうと思ったんですか?

学びが足りない気がして…。大学院で学んだことで、どうしても伝えたいことはたくさんありました。それを、どういう風にしたら言語化できるかとか、どんな言い方ややり方だと伝わるかということはかなり試行錯誤してきたんですけど、全然関係ない分野の本を読むとか、主催している人の思いに耳を傾ける時間がほぼゼロだったんです。これではよくないと思い、先日、アメリカの対話の場に行ってきました。私が本当に自由にできると感じる場を求めて、アメリカのAoHの実践者が集う合宿を選びました。

ーーアメリカではどうでしたか?

楽しかったので、自分のしていることにすごく自信が持てました。自分で場を主催しているだけだと、自分のミスが目についたり、もっとよくできたはずだとか思うんですけど、自由に表現していい「場」があること自体が素晴らしいことなんだと改めて感じました。

ーーアメリカで参加者として対話をしてるときはどんな感じだったんですか?

この4年間、自分が会を主催しているときは、私が好きなことを話しているつもりだったんですけど、今思うと、来てくれている人たちにとって何がいいだろうという選択肢の中で私が一番話したいことを話しているということに気づきました。

アメリカでは、本当に眠いときは寝ていたし、発言したいときは発言していました。泣きたいときに泣き、輪から外れて誰かと話したいときは外れて。その瞬間瞬間に自分にとっての大事な話を自分らしくしていました。自分が主催側のときに、参加者の方に「自由にいてください」と伝えているのですが、自分自身がそれをできた感覚です。本当に好きにして、だからこそ出てくる思いを話すことができました。

ーー人の場に参加するようになり、学びの時間が増えて大きく変化したことはありますか?

上手く言えないんですけど、あー自分はすごいちっぽけだなと確認できたのはよかったです。まだまだ知らないことがあるという当たり前のことを感じ、死ぬまでに学び終わらない、やりたいことはやり終わらないなと思いました。

先のことを考える

ーースウェーデンの大学院でサステナビリティを学びたいと思ったのはなぜですか?

当時の私は基本的に仕事以外に興味がなくて、働くのに便利かどうかだけが大切な基準でした。妊娠したときに、論理的な思考がかなり強い私の頭では出産についてどうしても納得できなかったんです。調べれば調べるほどわからない。恐怖の中で助産所に行ったら、「あなたは仕事をしてきたかもしれないけど、生き物としてのちからがないのよ」と言われて…。それから食べ物も全部変え、ヨガをし、1日2時間歩く優良妊婦として過ごしました。それまではコンビニのご飯しか食べていなかったのですが、そのときに確実に体が変わりました。

もともとは赤ちゃんに興味がなかったのに、初めて抱き上げて、肩のところに息子の頭がちょんと乗ったときに、ほんとうにかわいいと思いました。彼は私にとって未知の生き物でした。この時から、彼との暮らしや彼の住む未来などいろいろ先のことを初めて考えたんです。サステナビリティというのは、先のこと。持続可能かどうかというのは、今だけ生きていればいいということではないんです。

この子の人生、この子の住む世界ってどんななんだろうということをそれまで本当に考えたことがなかったので勉強しようと思いました。

仕組みに働きかける

ーー今、SDGsが話題ですね。

現在住んでいる北海道でもSDGsという掛け声は本当によく聞かれます。でも、その意味するところはさまざまだと感じていて、SDGsは諸刃の剣だなと思っているんです。SDGsはサステナビリティでやっていることの一部だと思うのです。私は部分最適のために進むのがとても苦手。そこの部分だけ一生懸命やって、あとで全体から見たらマイナスだった、無駄だったというのが好きじゃないんですね。今のSDGsの使い方だと、知ったらよし、みたいな誤解も生まれている気がするんです。SDGsはサステナビリティを考える方をつなぐ共通言語であることは間違いないので、私もSDGsをキーワードに対話の場をご一緒させていただく機会を楽しんだりしています。

ーーそのSDGsが一部だとすると牧原さんのしたいことの全体はどんなことですか?

SDGsは知ってからが勝負です。知ってからどうするのという戦略まで行かないと、何にも解決しません。例えば「海の生物を守ろうということに気づきました!」で止まっていたら、「それで?」と思ってしまいます。その「それで」を考える道筋を学んでいないとみんな本当に足元のことしかしないままになってしまう気がするのです。

例えば、海をきちんと守っている人の食べ物を食べようというのも大事なんですけど、でもやっぱりいろんな仕組みに働きかけていく人口が増えていかないと、圧倒的に悪くなっていく流れに負けてしまうと思います。これまでSDGsのワークショップで会う人たちから「まず足元からですよね」「まずできることからですよね」と言われるたびに、自分の力のなさを感じてきました。それが第一歩なのかもしれませんが、そのことと社会の仕組みに働きかけていくということとは遠いような気がしています。

ーー仕組みに働きかけるとは?

例えばエコ製品を使いましょうというような働きかけ方は、いいか悪いか若干微妙だと思っています。その製品をつくる組織にすごい男女差別があるとか、エコペーパーを運ぶためにCO2をたくさん出しているとか。そもそもモノを使わないやり方を見つけるべきじゃないかとか。そんな感じで、そもそも…という大きな絵と比べて見てそれがプラスなのかマイナスなのかという視点がないと、個別のメッセージを「これがいいって聞いたから」と片っ端から取り入れていても本質的な解決にはならない気がしています。

原発問題を例にすると「もうあんなことが起きないようにどうしたらいいんだろうと新しい仕組みを考え、その方向に一歩踏み出す」ことと、「現状の仕組みの中で少しでも放射線のリスクが低い野菜を買う努力をする、でも出来るだけその土地で農家をしている方に届きそうなところでお金を払うという一歩」の行き着くところは遠い気がしています。もちろん、みんな大事なことなんですよ。でもそれだけでは将来の不安は解決しないのです。だから生きていくための食べ物を育ててくれる土、そして何よりそこに住む人たちの暮らしを脅かさないような社会の仕組みのために、私たちは何をしていきますか、という問いかけがないと、またどこかで事故が起きたときに同じことが起きてしまいます。

仕組みとしてのサポート

ーースウェーデンは自分、個人が大事にされるイメージがあります。

はい、だからよかったです。放っておかれるし、私には合っていました。個人を大事にして、社会の仕組みが助け合う感じなんです。隣りのおせっかいおばちゃんが世話を焼いてくれるというよりは、社会の仕組みが助けてくれます。隣りに親切な人が住んでいなくても、セーフティネットがあるというイメージです。ちなみに、実際にはお隣さんは親切なお兄さんで、助けを求めると、求めた通りに助けてくれるという感じでした。助けを求めないと、何もない。暮らしの中で困ったときに時々出会う、「助けてというと、助けてもらえるんだ」という感覚にとても安心感をもらっていました。

ーー日本もそうなったらいいなと思いますか?

すごく思いますね。スウェーデンでは、仕組みがあるからいちいち謝まらなくていい感じです。「あなたの善意でこうしてもらってすみません」と過度に遠慮しなくていいのは、私としてはすごくいいと思ったんです。

合理的であることがよいことなのか

ーー保育園の待機児童問題なども含めて、女性が働きにくいのは、社会の問題によることもありますが、女性の意識の問題もありますか?

そう思います。だから言いたいことを言ってもいいんだ、やれることはやってもいいだということをAoHやその他の対話の場で伝えていることが結構多いです。

ーーもっと女の人が活躍してほしいですか?

活躍してもしなくてもよくなったなったらいいと思います。周り人の都合で活躍しろとか、輝けなんて言われたくないです。生理のときは輝けないし、疲れているときは活躍しない、でも元気なときは任せて!ということが普通だといいなと思います。

ーー社会は「成長しなくては」という空気が大きいのかなと最近思っています。結果的に成長したり、変わることもあるけれど、そんなに成長、成長と言われたら疲れちゃうなと思っているんです。

私のサステナビリティのワークショップでも、ほぼそれに近いメッセージをお伝えしています。「私、そんなに合理的じゃないといけませんか」と言いたい。「サステナビリティ・持続可能社会」という仕組みを考えるとき、経済はすごく大きな仕組みです。その仕組みの前提が合理性や効率性にあって、それがそもそもいつでも大事なんだっけ?という議論をすっ飛ばして、当たり前のこととして使われている感じに、強い違和感を持っています。だからAoHの場やサステナビリティのワークショップでは「それ本当にそう?」ということを考える、対話する時間を呼びかけています。

現場を生きる

ーーいま、やっていて楽しいことは何ですか?

本質的にがんばっている人たちを応援できているかもしれないと感じているときが楽しいです。先日、静岡県牧之原市で開催したAoHで若者が9人もいたことが大きなモチベーションになりました。私は30歳を越えるまで気づかなかったし、投げかけてももらえなかったメッセージがこの人達には届くかもと…。特に女の子に、自由に育ってね!という気持ちが伝わったらいいなと思いました。

ーーこの一年ご自身が学び手になっている中で、次に生かせそうなことはありますか?

聴き手になってみてよかったのは、自分はもっとメッセージを絞って出した方がいいなと気づいたところです。私はサステナビリティの大きなイメージを理解してもらえるような場を開けば、あとはそれぞれの人が私の意図通りに学んでくれたことを活かしてくれるなんて、虫がいい考えかもしれないと思うようになりました。なので、自分が伝えたかった大きな絵を頭に置きつつ、自分が目の前の人にどれだけ効果的な現場レベルの投げかけをできるのか。そのための腕を磨く方がいいと思うようになりました。

時間を戻ってこの一年を迎えるちょっと前、友達が住んでいるまちで大規模開発の話がありました。それに待ったをかけられないか、まちの人たちの気持ちをより少しでも合わせられないかと彼女が奮闘していたとき、私は全く役に立たなかったんです。もちろん時間があって、お金があって、とにかく「もし」がもっと揃っていたら、私にもできたことがあったと思います。でも現場ってそんな綺麗にお膳立てされることなんてない。「最低限これだけ知っててくれたら」と私が思うエゴに、のんびり付き合っている暇なんてないんです。それでも耳を傾けてもらい、大変なときにこそ一緒にやろうと言ってもらえる関係性を作るために何かできる道を見つけないといけません。彼らの土俵で、彼らのタイミングで力になれる自分になりたいと思いました。

自分の好きな友達の問題をサポートするには今の私のやり方はだいぶ遠いんだ。そういうまだ出会ってないけれど頑張っている人たちの役にたちたいなら、どうしたらいいかわからないけれど、今のままではダメ。

そのためのヒントがこの一年で見つかった気がしています。

仕組みへの働きかけを念頭におきながら、人の顔が見える現場にいたい。そこでの学びが、AoHのトレーニングの場に循環させていけたらと思っています。

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注1:ここで「対話」は、意図を持って話すこと、学びのためによく聴くこと。
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(インタビュー:寺中有希 2018.10.9)


プロフィール


牧原 ゆりえ(まきはら ゆりえ)
札幌在住/一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事​、Art of Hosting Japanの世話人

​​​1997年国際基督教大学を卒業後、大手監査法人に公認会計士として勤務。出産を機にサステナビリティに強い関心を持つようになる。2009 年家族でスウェーデンへ渡り、2つの修士課程で学ぶ。留学中に出会った北欧発の参加型リーダーシップトレーニングArt of Hostingの実践者であり、「ていねいな発展(Human Scale Development)」翻訳者。女性のインナー・リーダーシップ」を探究するプログラムComing into your own (CIYO)Japan ファカルティ。2016年より札幌移住。

スウェーデンの大学院と小さなまちでの暮らしから学び、いいなと思った暮らしを生き、伝え、やってみる場を作る。地域創成のための参加型合意形成の基礎になるグラフィック・ハーベスティング、ホールシステムアプローチを用いた地域社会の女性と若手の集合的な潜在能力を育むホスティング、スウェーデンの科学者が合意形成により形にしたサステナビリティ戦略フレームワークを伝える。

完訳:「ていねいな発展」のために私たちが今できること
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