インタビューvol. 31 「自然(じねん)のままに」


自然(じねん)経営研究会」代表理事のひとり、山田裕嗣さん。「自然(じねん)」と「経営」は一見すると結びつきにくそうですが、山田さんの考える「自然経営」とは。

自然(じねん)経営とは

ーー自然(じねん)経営という言葉を生み出したきっかけは?

自然経営研究会は、ダイヤモンドメディアにいた武井さんと立ち上げました。当時、ティール組織という言葉が出てくる前でしたし、僕たちが志している経営を表すよい言葉がありませんでした。また、西洋の文化のもとで生まれたものは何か違和感があるので、僕たちなりに何か日本らしい言葉をつくろうということになりました。

そんな中で、「自然のような経営」という話が出てきました。でも「自然(しぜん)経営」だと農業みたいなので、深い意図もなく「自然(じねん)経営」と名付け、2017年の秋に始まりました。

ーー2年くらい経って「自然(じねん)」という言葉をどういう風に感じていますか。

当時はそんなに思い入れがなかったんですけど、あとから考えるとよくできた言葉だと思っています。

組織というもの自体を、機械のように部品を集めてつくるものではなくて、それ自体が生命体みたいなものという風に捉えたうえで、どうやって組織をつくるのかということを考える、自然のように変わり続けるような経営の仕方という考えがしっくりきました。

もう一つは、「自然(しぜん)」にしなかったのはよかったと思います。自然(しぜん)はnatureの訳語なんです。一方、「自然(じねん)」は、もともと仏教用語や日本の用語であり、言葉に宿っている人と環境、自然に対するスタンスの違いがすごく表れています。

神がつくり給うた世界に生きているという世界観の西洋と、八百万の神が宿っていて、人間もその中のひとつでしかないという東洋の世界観。

環境と自然と人が明確に分かれていて、ある種、統治支配する存在として自然をみる西洋的な世界と、全てに生かされている、全てに神が宿っている中のひとつとしての人という距離感で見ている東洋的な考え方が自然(じねん)的な自然の捉え方です。

あるがまま変わり続けることが、人の生き方にも、組織のつくり方にもすごく大事だということが、いろいろな議論する中でだんだんわかってきました。当時、適当につけたわりにはいい言葉を選びました(笑)

ーーいまはご自身の組織でも自然経営を実践されているのですか?

いえ…。まさにいま、僕のチャレンジ中です。

いま僕が会社員をやっている組織は、社員は80人くらいのAIのベンチャーです。資本主義の「ザ・ど真ん中」でちゃんと成長続けることが求められています。その状況の中で、自然的な世界観でどう組織をつくることができるのかということを経営陣もやりたいと思っているので、それがどうできるかチャレンジ中です。難しいですけどね…。

自然(じねん)の最初の一歩

ーー自然経営をしていこうと思ったとき、まず何から手をつけていったらいいのでしょう?いきなり「自律的に」と言ってもできないですよね。

コンサル的なお手伝いをするときには、まず「これをやったらこうなりますという、原因結果の世界ではありません。マイルストーン的なものも敷けません」ということを伝えていました。

そこには3つのフェーズがあります。まず「種を植えるための土壌を整えるフェーズ」、次に「種を蒔くフェーズ」、そして「見守るフェーズ」。この3つが線的に続くというよりもぐるぐる回りながら繰り返していくイメージです。

まず土壌を整えて、自然経営を始める準備をします。どんな経営をしようとしているのか、何が起こるのかという予備知識を持ってもらいます。その状態があってから種を蒔くのが大事です。

何がどれだけ起きるかは、予測はできても、計画はできません。変化を起こしてみた結果を見守って、次に何をするといいだろうということを繰り返します。

「いつまでに何ができます」とは、絶対に言えません。かつ、次の変化のきっかけに何がいいのかも、なんとなく経験上わかっていることはありますが、必ずこれをやればいいというのはないです。その繰り返しを伴走しています。

情報の共有が考えるベース

社長が「やるぞー!みんな集まれ!自由自律だぞ!」みたいなことを言うとうまくいきません(笑)

社長がやりたいと言っても、最初は一緒にやりたいと思う人を有志で集めることから始めます。「自律的な組織をトップダウンで作る」ことをしてもうまく行かないので、意思をもって自発的にやりたい人に集まってもらうことが、一番最初の土壌づくりなんです。その人達が本当にやりたいと思ってくれたら、次にどうすればその輪が広がるかを考えて、いろいろな実験を繰り返してみます。その結果として、徐々に関わる人の輪が広がっていきます。

その他、必ず言っていることは、大前提として情報の共有化がなされて、透明な状態でないと自律的な組織は成り立ちづらい、ということです。なぜかというと、一人ひとりが自らが判断しても、結果的に組織全体がいい方向に向かうためには、みんなが近い判断ができないといけないんです。ただ、人によって持っている情報が違うと、合理性が限定されてしまいます。

社長だけがみんなの給料やお金のことを知っているのに、みんなに「当事者意識を持て!」と言っても、できません。それは情報が違うからです。

人が考えられる前提は、情報が揃っているということです。そこが揃っていなくて、みんな同じように考えることはできません。でも給与の全公開をできる会社はなかなかないですね…。

ーーそうすると前提として自然経営を取り入れるのは難しいですか?

「ここからが自然経営です」という定義があるわけではありません。グラデーションの中で、どこから変えていくといいのだろうということを自分たちなりに見つけることが大切です。

生態系としての組織

ーー自分たちで変えていくというのは、口で言うほど楽ではないですね。

そうです。本当にそこが大事です。生態系なので、変えてはいけないもの、変わらないものではなく、意思を持って変えようと思えば変えられるものだという体験を積むとことが大事です。

徐々に変えていくことはできます。そういう感覚を持ってる人が増えていけば全体の活性度が上がっていき、だんだん変わっていきます。

ーー常に変わっていくという感じですか?

生態系は誰かがコントロールして、「こっちに行くぞ!」とか、「こういう植物のばすぞ!」としているわけではないんです。環境に合わせてそのときに最適なものが繁殖するのと全く一緒で、構成する一人ひとりが、一番よかれと思ったことをやった結果、生態系は一番よい方に進化することで組織が動くと思っています。

役割分担と影響範囲

もちろん組織の中に役割分担は必要だと思います。より視野の広い人、長い目線で考えられる人が、中期の戦略を考える役割を持つことは重要ですし、とても理に適っています。ただし、その役割の人が偉くて、みんなはその人に従うというものではないので、役割と影響範囲は分けて考えていきたいですね。

そうやって役割分担をしながら、一人一人が判断するようになると、大体いくつかは失敗します。「こっちに餌があるぞー」とそこへ行ってみた結果、餌がなくてその群れが死ぬというようなことはたまに起こるんです。それでも生態系が独自に判断し続けた方が、結果的に強靭になるので、自力が強くなって生き残りやすくなっていく、と組織を捉えています。

この間、ティール組織のフレデリック・ラルーさんの話を聞いている中で、リーダーの役割で大事なことは、「場を持つこと」であり、その場に対する一番の意図を持っている人であるということを言っていました。

彼はパーパスとソースという言い方をしていて、ソースとは、一番組織の目的の近くにいる、雑音混じりのラジオの一番近くにいて、それをきける人。その人の意図がその組織の一番の根源の目的になります。何を目指すのかということをきいていて、それを伝える人は必要だと思います。

自然経営研究会では、おそらく僕が一番目的に近いところにいる人だし、ソースは誰かときかれたら、今は自分なのではないかな?とは思っています。一時期は、特定の人がソースを持っていますという感覚が嫌だったんです。なるべくみんなでつくるものにしたかったので。

ソースの影響力

ーーソースの影響が強いということと、みんなで自律的につくっていくということにはどんな関係がありますか?

言い出しっぺでエネルギーを持っている人がいるから、その周りで何かが動くというのがあると思います。そのエネルギーがこの団体のもともとの立ち上げた目的、それまでの生い立ち、みたいなものに近ければ近いほど、よりみんなが動きやすいです。

一時期僕が忙しくなったのと、自分が何でも影響を持つのはよくないと思っていたので、何もせずに引いていた時期もありました。それによって、他の人が団体の活動を動かしてくれるようになったり、色んな変化も生まれました。ただ、私自身がここでやりたいと思うことは、自分から働きかけないと生まれないのだなとも感じました。

ソースはちゃんといた方がいいんだということと、退く場合は、必ず儀式を持って誰かに引き継ぐということがなければ、次には伝わらないんです。

ソースというのは、人が集まったときには必要な機能なのかなと思っています。でもソースを当たり前に「上にいる人」と思い過ぎてしまいます。僕たちがすでに暗黙で持っている組織観が邪魔をしているんじゃないかと、いま考えているところです。まだ解はでていませんが…。組織観のアップデートはすごく大事だと思います。

組織の中の「空(くう)」

西洋的社会は中心が強く、真ん中に神がいて、その影響力によって物事が決まります。一方で東洋の神話では、真ん中の影響力は強いけれど、何もしない神がいる構造がすごく多いんです。河合隼雄さんはそれを中空均衡構造と言ったんですけど、真ん中はいるけれど何もしない。周りにいる人達がうねうね動きながら、全体としてはバランスがとれているというのが日本の神話なんです。

仏教的には、真ん中は「空」です。空のところをみんなが感じたり、みんなで触れていく状態にしたら、実は東洋的な文化の中ではそのまま成り立つのではないかと思ったので、それをやってみたんですけど、準備ができていなかったのかうまくいきませんでした。

ーー組織の中でいう「空」は具体的には何ですか?

絶対的な中央がいないということです。トップがある状態ではなく、フラットでみんなで決めるということを本当にやろうとすると、真ん中で決める人の強い重心がないので、そういう状態が空に近づいている状態だと思っています。

基本はなるようになってほしいと思っています。どうなって欲しいかについては、僕は僕で勝手に思って、僕が思っていることに共感がたくさん集まればそちらの方に動いていき、共感されなければ違う方向に進んでいくでしょうね。

だから研究会がどうなるかわからないです。ただ僕の思うことは割と影響力はあるので僕の願いをかけたほうにある程度傾きやすい感じがします。いろいろな方向に動いてほしいです。研究会はひとつの実験場でしかないので、ここで熱量高く集まったものをそれぞれ勝手に違うところでみんな実験してきてほしいと思っています。

(インタビュー:寺中有希 2019.10.09)


プロフィール:

山田 裕嗣(やまだ ゆうじ)

人材育成・組織開発を支援する株式会社セルムに入社。大手企業の研修企画、人材育成体系の構築などを手掛けるとともに、自社のナレッジマネジメント体系の構築、新規事業開発室の立ち上げ、などを担う。
グリー株式会社のヒューマンリソース本部に転職。エンジニアを中心とした中途社員の採用を主に担当。
株式会社サイカに入社、代表取締役COOに就任。事業の立ち上げ、成長フェーズに合わせた組織設計、新規部門の立ち上げ(管理部/マーケティング/コンサルティング/広報etc)等を幅広く担当。
2017年12月にEnFlow株式会社設立、代表取締役に就任。新規事業の立ち上げ、組織戦略のアドバイザーなどを担当。
2018年7月には、次世代の組織の在り方を探求するコミュニティとして、一般社団法人自然経営研究会を設立、代表理事に就任。
2019年5月より、株式会社ABEJAに入社、人事責任者を務める。

一般社団法人 自然経営研究会
「自然経営 ダイヤモンドメディアが開拓した次世代ティール組織 Kindle版」
武井浩三 、天外伺朗 著