インタビューvol.40 景浦由美子さん「どんな動きにもイエス」



イギリス発祥の「ムーブメント・メディスン」の認定ティーチャーになるべく実践を積んでいるアプレンティス・ティーチャーの景浦由美子さんに、オンラインセッションで出会いました。「動きが薬になる?それはどういうことだろう?」と思い、参加してみました。体を動かしていくと、何かが流れてくる感覚がありました。あれは何だったのかといまでも不思議な感覚が残っています。

体の動きが薬である

ーームーブメント・メディスンとの出会いは?

「ムーブメント・メディスン」は「体の動き」が「メディスン(薬)」であるという考え方です。「メディスン」は直訳すると薬ですが、もう少し広義で、先住民のシャーマンのことをメディスン・マン、メディスン・ウーマンと呼ぶ意味合いに似ています。自分の人生や今日の暮らしに必要なものを受け入れていくというようなことも含めて「メディスン」と呼んでいます。

ムーブメント・メディスンは、イギリス人のスザナ&ヤコブ・ダーリングカン夫妻が14年前に生み出した新しいボディワーク、型のない踊りです。踊りというよりも、型がなく、体の自然な動きをしていくものです。

ムーブメント・メディスンにはいろいろなメソッドがあり、一人で動くものも、関係性で動いていくものがあります。私とあなた、私とコミュニティ、私と目に見えない存在たち、私と大いなるもの、との関係性を踊ります。現在、過去、未来、森羅万象とつながっていく感覚になるものもあります。

何かが起きた

ーー最初にムーブメント・メディスンを受けたときもそのように感じたのですか?

2015年に会社を辞めるのと同時に、東京で始まったばかりだったクラスに参加しました。私は運動は好きでしたが、ダンスは嫌いでした。でもムーブメント・メディスンには何か気になるものがありました。実際にやってみたら、今までに経験したことのない感覚になって、「私の体に何が起こったんだろう??」と思ったんです。何が起こったのかを知るためには、もう一度やらねばならないと、結果、クラスに通い続けることになりました。

体が動く中で、体や感情、頭に、いろいろなことが起きます。探求していく中で、何故そのようなことが起こるのかをもっともっと探求したくて、これはもう源に行くしかないと思い、海外のレッスンに参加しました。そしてその後、イギリスにある「スクールオブムーブメント・メディスン」に通いました。スクールのプログラムで学んだことは、体で自分と向き合うということでした。

意図しない動き

ーー最初に受けたとき、「何が起こったんだろうと思った」とのことでしたが、そのとき、何が起きていたんだと思いますか?

いままでに得たことがない感覚が起こりました。そのときは言葉になっていませんでしたが、いま思えば、「体を自由に動かす」ということだったのだと思います。

普段の生活や運動では、「ラケットを握る」「ボールを打つ」と、頭が司令を出して体が動いていますが、ムーブメント・メディスンでは、意図して動かすのではない動かし方を、体に許可します。

意図しない体の動かし方を体にさせるままにするというのは、普段しないことなので、体が自由に感じます。しかもどんな変な動きでも誰も何も言わない。というか、みんなものびのび動いてて、一層自由に感じる。動いている間、心もハッピーで自由に開いていく感じがしました。

その時はそこまで考えていませんでしたが、通常の命令系統は、「頭→心→体」または、「頭→心→頭→体」ですが、逆の感じでした。体が動くことで、「体→心→体→頭」に変わり、いつもと違うことが起きたのではないかと思います。

自由に動く

ーー「自由に動いていい」と言われても難しい人も多いのでは?

最初はガイドがないと動けないので、私の方でガイドしながら、まずは動きやすいよう、体の各部位にフォーカスしていき、自由に動くことに慣れていきます。

例えば足の指を曲げて伸ばしていくことを始めながら、少しずつ部位を移していきます。360度どんなふうに動いてもいいよと体に許可しながら、全身の関節や動く部分が徐々に動いていきます。ガイドに乗って動いていくと、だんだん、体が動きたがりるのがわかります。

体に許可を出す

「自由に動く」よりも、「出てきた動きに許可を出して、ついていく」という方がわかりやすいかもしれません。体に許可を出していくと、何かしらの動きが出てきます。何かしらの動きが出てきたら、小難しいことを考えずに、それに乗って全身で動いてみます。

そうしていくと、始めは動きづらかった体が少しずつ動き出します。そして自分の体のどこが動きたがっているのかが分かるようになってきます。これは訓練や慣れだと思いますが、体に「動いていいんだよ」と教えていく感じかもしれません。

どんな動きにもイエス

ーー動いていいということを体がわかるのですね。

私はよくレッスン中に、「どんな動きにもイエース」と言います。「イエス」と言うと、体がその言葉に反応して自由に動き出すんです。

ムーブメント・メディスンを通して、どれだけ自分に制限をかけていたのかということに気づく方も多いです。体に「イエス」と言っていると、どんな感情が浮かんできても、それを歓迎することにつながります。体が動いていくと、本当にいろいろな感情があがってきます。涙が流れてきたら、それもイエス。流れていくなら流していきます。

体が動き出す中で、感情も汗も涙もあくびも出てきます。さらに思考やビジョンも見えてきたりします。「動き(ムーブメント)」というのは、体、心、頭のクリエイティビティにダイレクトに作用するのではと思っています。

今日はそういう日

日によっても出てくるものや動きが違います。「今日は頭が思考でぐるぐるしちゃった」ということもあります。そういう日は、そうなんだね、とそのまま受け取ります。心配事がたくさん出てくる日もあるし、動きに没入する日も、ゆっくり動いて心の中のものが出てくる日もあります。

ーーその日によって、そういう自分なんだとわかる瞬間は大事ですね。

そうなんです。とっても「自分のための時間」なんですね。誰のためでもなく、自分のために体を動かします。それが何かのためになるというものではなくて、ただその時間は自分のための時間です。自分の「いま」なんです。それは癒やしかもしれないし、何かメディスンとして受け取るものがあるかもしれない時間です。

ーームーブメントメディスンと出会って、景浦さんが一番変わった部分はどこですか?

体は自分にとってリソースであるということに気づいたことが一番大きいかもしれません。

会社員として19年勤めていましたが、過労で起き上がれない日があったり、倒れて救急車で運ばれたり。仕事が大好きでやりたいけれど、同じように働くとまた倒れるので、そのサイクルとは違った働き方はないかと考えていました。

ムーブメント・メディスンに出会って、「体ってこうやって使うのかも」と知らされた気がしました。「体」とひとことで言っても、感覚なども含みます。体が感じることを感覚と言います。そして感覚は感情につながっています。感情はもともと感覚がもとになっている気がします。

感覚には、敏感で、鋭くて、繊細な面があります。そういう面を大切にして、体のことを深めていくことが、自分にとって、この体の生命を使い切るための方法だと感じています。

ムーブメント・メディスンを伝えることも私の大事な部分ですが、ムーブメント・メディスンを通して、自分自身がこの体で感じ、さらにそれを表現すること、もっと言うと、私という存在を通して生きること自体なのかもしれないと思います。

自分の体の内側、外側、感覚、感情と、体を通して向き合っていくのはすごく重要だと思いますし、いまの私には欠くことができないものです。

思わないこと

ーー動くことで感覚が研ぎ澄まされていく感じがしますか?

研ぎ澄まされていますし、自分がそうだと思っていないことには体が動かなくなりました。

ーーそうなると景浦さんはどんな感じですか?

そうだよね、と思います。いまはどちらかと言うと、「思考」ではなく、流れに乗ってやってきたものに対してどう感じるかをもとに選択するようになってきました。だから未来のことはきかないでという感じになっています(笑)

目の前にやって来たものを素直に、「来た!」と受け取ります。それは美味しいなと思ったらどんどん食べに行く、取りに行くという動物的な感覚かもしれません。

ーームーブメント・メディスンを体験せずに、いろいろな方に知っていただくのは大変な作業なのではないですか?

すごく難しいですね。でも難しいと思うと難しくなるからあまりそう思わないようにしています。

私の野望は「おっさんが踊り狂う日本」なので、ぜひ企業に導入してほしいと思っています。いまの社会通念では、会社で踊っているなんてありえないかもしれませんが、いつもと逆の回路で、「体→心→頭」という形で回路を回すのは、人間が人間であることにとても大切なことだと思っています。

ーームーブメント・メディスンの場を構成するときに大事にしていることは?

全てに「イエス」ということかもしれません。何が起こっても、「いいんだよ」と思っています。一人ひとりの中で何が起こっているかは外からは見えませんし、ジャッジすることもできません。ただそこに、共にいる。さらにいうと、私が声でガイドしますが、私が肘と言っていても、膝を動かしていただいても構わないんです。「ご自身と共にいる」ことをする時間ですから。

(インタビュー:寺中有希 2020. 7.28)

プロフィール:

景浦 由美子(かげうら ゆみこ)

神奈川県横浜市出身
大学卒業後、大手金融機関の営業部店にて営業職・事務職を経験。仕事に情熱を注ぎ、燃え尽きてたびたび体調を崩す。東日本大震災を契機に「どう生きるのか」を探求し始め、2015年9月に20年目で退社。同時にムーブメント・メディスンに出会う。身体を知ること、また身体の動きを通して心と頭の創造性を解放すること、その知恵と出会うこと、をムーブメントメディスンを通じ、伝えている。

2018年9月:スクールオブムーブメント・メディスン アプレンティス ティーチャー認定。

パーソナルライフコーチ(CPCC)、リーダーシップ・プログラム(CTIジャパン)修了、「本当の仕事」ワークショップ 認定リーダー、チェンジザドリームシンポジウム ファシリテーター、つながりを取り戻すワーク ファシリテーター

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